PR
恋の応援団長を名乗ってきたわたし、みゆ。なのに自分の恋になると途端にポンコツで。颯太を突き放したり空回りしたり、ぐるぐる迷ってばっかり。でもね、母の言葉と幼い日の記憶が、ようやくわたしの背中を押してくれたの。
朝、目が覚めた瞬間に思った。「あ、今日だ」って。
不思議とね、いつもの「準備がまだ」っていう言い訳が、するっと出てこなかったの。代わりに浮かんだのは、母の声。「みゆ、自分のことも応援してあげなさい」。わかる〜、って自分でうなずいちゃった。
布団の中で、わたしは天井に向かってつぶやいた。「わたし、いつもみんなに言ってきたんだ。一緒に前を向こうって」。さやかにも、ちなにも、何人もの背中を押してきた言葉。今日はそれを、自分に向ける番。
* * *
とはいえ、いざ動こうとすると手が震えるのよ、これが。あるある、ってもう言ってる場合じゃないんだけど、ほんとに指先まで冷たくなって。
こういうとき、わたしが友達に言ってきたこと、覚えてる?「準備が完璧になることなんて、一生ないよ」って。完璧を待ってたら、好きな人はどんどん遠くに行っちゃう。だから震えたまま動くの。震えてていいの。
とりあえずスマホを握りしめて、ちなに電話した。「ちな、わたし今日、颯太に会いに行く」。声に出したら、もう引き返せない感じがして逆によかった。
「は? やっと?」ちなの第一声、辛口すぎ。でもすぐに、ふっと笑う気配がした。「いいじゃん。やっとみゆが、みゆに優しくなったね」
その一言で、目の奥がじわっとした。そっか、わたし今まで、自分にだけ厳しかったのかも。みんなには「大丈夫、大丈夫!」って言ってきたのに、自分には一度も言ってあげてなかった。
* * *
電話を切って、鏡の前に立った。寝ぐせぼさぼさのわたしと目が合う。「うわ、ひどい顔」って思わず笑っちゃった。
ここでひとつ、実用的な話ね。気持ちがぐらぐらしてるときこそ、外側を整えると内側がついてくるの。これ、ほんとあるある。だからわたしは、いちばん好きなワンピースを着て、ちょっとだけリップを塗った。鎧みたいなもんだよね。
支度しながら、颯太に送るLINEを何度も打っては消した。「話したいことがある」――打って、消して。「今から行ってもいい?」――打って、消して。重くない? 引かれない? そんな心配がまた顔を出す。
でも、ふと気づいたの。わたしが怖いのは「嫌われること」じゃなくて、本当は「自分の本気がバレること」なんだって。あんなに人の本気を応援してきたのに、自分の本気だけは隠したかったんだ。
颯太の、あの寂しそうな横顔がよぎった。「最近変じゃね?」って心配してくれたのを突き放しちゃった、あの日の。あれ以上、颯太に変な気を遣わせたくない。逃げてるのは、もう終わり。
えいっ、と送った。「颯太、今から会える? ちゃんと話したいことがあるんだ」。送信ボタンの「ぴこん」って音が、号砲みたいだった。
* * *
返信は、思ってたより早かった。「いいよ。河川敷でいい? いつものとこ」。いつものとこ。子どもの頃から、何かあるとふたりで座ってた、あの土手。
もうそれだけで泣きそうになった。颯太はいつだって、わたしの「いつものとこ」にいてくれたんだよね。当たり前すぎて、気づけなかっただけで。
玄関でスニーカーを履きながら、心臓がばくばくして、何度も「やっぱり明日にしようかな」って弱気がささやく。でもね、わたしはもう知ってる。このこわさは、本気のサインなんだって。
ドアを開けたら、春先のぬるい風が頬をなでた。空は、笑っちゃうくらい晴れてた。「行ってきます」って、誰もいない部屋に向かって言った。
歩きながら、心の中で何度も唱えた。みゆ、大丈夫。ひとりで抱え込まなくていい。今日のあんたには、今まで誰かに贈ってきた言葉が、ぜんぶ味方についてるから。
河川敷へ続く坂道を、一歩ずつのぼる。手はまだ少し震えてた。でもね――心はもう、ちゃんと前を向いてた。颯太に会ったら、何て言おう。「あのね、わたし」。その続きは、まだ言葉にならないけど。
坂の上に、見慣れた背中が見えた気がした。わたしは、深呼吸をひとつ。さあ、行こう。今度こそ、自分の恋を応援する番だ。
この記事、少しでも役に立った?
よかったら ♡ で教えてね。あなたの「いいね」が、次を書く励みになります。
― 沙織(恋ことば)






コメント