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「頑張って」と背中を押すのが正解なのか、「休んでいいよ」と寄り添うのが正解なのか――大切な人に言葉をかけたいのに、どっちが本当にその人のためになるのか分からなくなること、ありますよね。
この第3話は、まさにその問いに一つの答えをくれる回です。正反対の恋ことばを持つ沙織とみゆが、なぜ違う言葉を紡ぐのか、そして正反対がどう「つながって」いくのかが描かれます。
雨宿りのカフェで、二人はまだ話し込んでいた
雨宿りのカフェで、画面越しの“言葉の友”と偶然出会った私、沙織。「Xの人だ」と気づいた瞬間の、あのおかしくてくすぐったい笑いは、今でも忘れられません。
あれから私たちは、その小さなカフェの席で、まだ動けずに話し込んでいたのです。
* * *
「沙織さんの投稿、いつも読んでます。あの、『無理して笑わなくていい』ってやつ」
みゆちゃんはそう言って、湯気の立つカフェラテを両手で包みました。まっすぐな目でこちらを見る子で、私はちょっとだけ照れてしまったのを覚えています。
「ありがとう。私こそ、みゆちゃんの『大丈夫、一緒に前を向こう』に何度も背中を押されたよ」
正直に言うと、当時の私はみゆちゃんの言葉を、少しだけ眩しく感じていました。
なぜ二人の「恋ことば」は正反対だったのか?
結論から言うと、二人の言葉が正反対だったのは、通ってきた痛みが正反対だったからでした。話しているうちに、私たちの“恋ことば”がずいぶん違うことに気づいたんです。
さっきカフェで相席だった女性への言葉。みゆちゃんは「大丈夫、勇気を出して連絡してみよう」と背中を押していました。でも私はといえば、「まずは自分の気持ちを整理してからでいいんじゃないかな」って、立ち止まる方をすすめていたんですよね。
「私たち、正反対ですね」
みゆちゃんが目を丸くして笑いました。私も、ふふ、と笑ってしまいました。
「そうかも。私はどうしても、まず立ち止まっちゃうから」
「わたしは逆で、立ち止まってると不安になっちゃうんです。動いてないと、こわくて」
あー、それ、なんだか分かる気がしました。人は、自分がつらかったやり方の“反対側”に、救いを見つけるのかもしれません。
* * *
私は失恋のとき、走りすぎて自分をすり減らしてしまった人間でした。相手に合わせて、笑いたくないのに笑って、気づいたら自分が空っぽになっていて。
だから「立ち止まっていい」「自分を大切にしていい」という言葉が、私の中から生まれたんです。
「私はね、昔、動きすぎて壊れちゃったの。だから今は、まず休んでって言いたくなるんだと思う」
そう打ち明けると、みゆちゃんは静かにうなずいてくれました。そして、少し照れたように言ったんです。
「わたしは逆でした。ずっと臆病で、一歩も動けなかった片思いがあって。だから、動けなかった頃の自分に『大丈夫だよ』って言ってあげたくて」
その言葉を聞いて、私はハッとしました。違う痛みを通ってきたから、違う言葉が生まれた――ただそれだけのことだったんですよね。
正反対の言葉は、矛盾ではなく「バトン」だった
ここが第3話の核心です。二人の正反対の言葉は、どちらが正しいかを競うものではなく、順番につなぐ「バトン」でした。最初は、正反対であることに少し戸惑いもありました。同じ人に、私は「休んで」、みゆちゃんは「進んで」と言う。矛盾しているんじゃないかって。
でも、話すうちにだんだん見えてきたんです。
「ねえ、みゆちゃん。落ち込んで動けない人には、まず私が『立ち止まっていいよ』って言う。それで少し元気が戻って、動きたくなった人には、みゆちゃんが『大丈夫、一緒に前を向こう』って言う。それって……」
言いかけた私の言葉を、みゆちゃんが引き取りました。
「バトンみたいですね。落ち込んでる人はまず沙織さんが受け止めて、前を向けそうな人はわたしが押す」
そう、まさにそれでした。正反対だからぶつかるんじゃなくて、正反対だからこそ、順番につながっていく。
動けないほど落ち込んでいる人に、沙織が「立ち止まっていいよ」と声をかける。無理に進ませない。
受け止めてもらえた安心から、「そろそろ動いてみようかな」という気持ちが芽生える。
前を向けそうになった人に、みゆが「大丈夫、一緒に前を向こう」とバトンを渡す。
一人の言葉では、届かない相手もいる
「一人だと、届かない相手もいるんですよね」
みゆちゃんがぽつりと言いました。
「わたし、たまに思うんです。背中を押しすぎて、まだそのタイミングじゃなかった人を、逆に苦しめてないかなって」
あー、それ、すごく分かります。私も同じでした。寄り添うばかりで、本当は背中を押してほしかった人を、立ち止まらせすぎてしまったんじゃないか、って。
「もしかして、みゆちゃん、自分の言葉だけじゃ足りないって、ずっとどこかで思ってなかった?」
私が聞くと、みゆちゃんは少し驚いた顔をして、それからゆっくりうなずきました。
「……はい。だから今日、沙織さんに会えて、なんだかホッとしたんです」
正反対の二人が、初めて同じ方を向いた夜
窓の外を見ると、いつの間にか雨は小降りになっていました。カフェの照明が、濡れたテーブルにやわらかく映っています。
私はそのとき、なんとなく確信めいたものを感じていました。この子とだったら、私一人では届かなかった誰かにも、言葉が届くかもしれない、って。
「みゆちゃんの言葉と、私の言葉。合わせたら、もっといろんな人に届くのかもね」
そう口にした瞬間、みゆちゃんの目がきらりと光ったのを、私は見逃しませんでした。
「それ、わたしも今、同じこと考えてました」
正反対の二人が、初めて同じ方向を見た夜。まだ何も始まっていなかったけれど、何かが動き出す気配だけは、たしかにそこにあったんです。
この第3話から受け取れるヒント
物語を離れて一言だけ。大切な人にかける言葉に「唯一の正解」はなく、相手が今どの段階にいるかで、必要な言葉は変わります。落ち込みの底にいる人には「立ち止まっていい」、少し回復して前を向きかけた人には「大丈夫、一緒に進もう」。この順番を意識するだけで、あなたの言葉はぐっと届きやすくなります。もし相手がまだ反応も薄く動けそうにないなら、それは後押しより先に、ただ受け止める段階なのかもしれません。



よくある質問
Q. 恋ことば物語は何話まであるの?
A. 全5話の連載です。この第3話では、正反対だった沙織とみゆが初めて同じ方向を見る場面が描かれます。記事末尾のリンクから第1話・第2話や目次もたどれます。
Q. 落ち込んでいる人に「頑張って」と言うのは間違い?
A. 間違いではありませんが、相手の状態によります。まだ動けない人には「立ち止まっていいよ」と受け止める言葉が先に必要なことも。物語では、受け止めと後押しを順番につなぐ考え方が語られます。
Q. 第3話から読んでも話は分かる?
A. 第3話だけでも、正反対の二人が惹かれ合う核心は伝わります。ただ、二人の出会いの経緯は第1話・第2話にあるので、あわせて読むとより深く楽しめます。
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― 沙織(恋ことば)



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