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前回、わたしはやっと決めたんだ。比べて落ち込むのはやめて、まず自分の気持ちをちゃんと認めようって。颯太を好き――そう、初めて自分に正直になったところだった。
……でもね。そんな決意、こんなに早く試されるとは思わなかったんだよ。
* * *
その日は、サークル終わりのカフェ。わたしが先に着いて、アイスティーをずるずる飲んでたら、あかりちゃんがちょこんと向かいに座ったの。
「みゆ先輩、ちょっと相談してもいいですか?」
その目がね、もうキラキラしてて。あ、これ恋の相談だって、応援団長のセンサーが一瞬で反応しちゃった。なのに、なぜか胸の奥が、きゅっと冷たくなったの。
「うん、どしたの?」
わたしの声、ちゃんといつも通りだったかな。たぶん、ちょっとだけ高かったと思う。
「あの……颯太先輩との恋、応援してほしくて」
* * *
世界が、ぴたっと止まった。いや、止まってないんだけど、わたしの中の何かが完全に固まったの。氷みたいに。
いつものわたしなら、ここで「わかる〜!」って身を乗り出して、「で、どこまで進んでるの?」ってグイグイいくはずだった。背中を押すのは、世界でいちばん得意なことだったのに。
なのに、言葉が出てこない。喉のところで、全部つっかえてるの。
「颯太先輩、優しいし、面倒見いいし……みゆ先輩、幼なじみですよね? 颯太先輩って、どういう子が好きなんですか?」
あかりちゃんは、なんにも悪くない。まっすぐで、可愛くて、ずるいところなんて一個もない。その純粋さが、いちばん刺さるんだよね。
「えっと……颯太はさ」
言いかけて、わたし、ぐっと飲み込んだ。颯太が好きなタイプ。それ、わたしいちばん知りたいの自分なんだけど!って、心の中で叫んでた。
「……まあ、明るい子は好きなんじゃない? あかりちゃんみたいな」
言っちゃった。にっこり笑って、言っちゃったの。あかりちゃんは「ほんとですか〜!」って花が咲くみたいに笑って、わたしはその笑顔を、ちゃんと見られなかった。
* * *
家に帰って、ベッドにダイブして、わたしはしばらく動けなかった。
応援できなかった。ううん、応援できなかったどころか、自分の気持ちに蓋して、笑顔で受け流した。それがいちばん「いい先輩」っぽいから。それがいちばん、嫌われないから。
「……うわ、ダサ」
声に出したら、よけい情けなくなった。人の恋には「素直になりな!」って百回くらい言ってきたくせに、自分はこのザマだよ。
でもね、ここで一個だけ気づいたことがあって。応援できなかったんじゃなくて、わたしは本気だったんだ。どうでもいい相手だったら、笑って背中押せてたもん。押せないのは、それだけ颯太を諦めたくないって、心が言ってる証拠だった。
ちなにいつも言われてたじゃん。「こわさは本気のサイン」って。応援できない苦しさも、たぶん同じ。本気だから、苦しいんだ。
* * *
そのタイミングで、スマホがぴこんと鳴った。颯太だった。
「最近元気なくね? いちごミルク奢るから、明日学食来い」
このタイミングでそれ反則だよ、颯太。わたしの心、いまジェットコースターの最下点なんですけど。
颯太はいつもそうだった。わたしが落ちてるとき、理由を根掘り葉掘り聞かないで、ただ「いちごミルク」を差し出してくれる。子どもの頃から、ずーっと。
その優しさを、あかりちゃんにも向けるんだろうな、って思ったら、また胸が痛んだ。でも同時に、思っちゃったんだよね。このいちごミルクは、わたしのなんだって。独占したいって、生まれて初めて、はっきり願った。
「ありがと。明日いちごミルク2本な」って返したら、「強欲か」って秒で返ってきて、ちょっと笑えた。
* * *
あのね、もしあなたが今、誰かの幸せを「素直に応援できない自分」に落ち込んでたら、覚えといてほしいことがあるの。
応援できないのは、心が冷たいからじゃない。本気で欲しいものが、目の前にあるからだよ。その苦しさは、あなたが自分の気持ちにやっと正直になれた証拠。だから、まず一回、自分にこう言ってあげて。「応援できなくて当然だよ、だって本気だもん」って。
わたしはこの日、いちばん嫌いだった「応援できない自分」を、ちょっとだけ許せた。許せたからって、すぐ動けるわけじゃないんだけどね。
でも、ひとつだけ決めたの。あかりちゃんに嘘の応援をするのは、もうやめよう。中途半端に笑って受け流すのは、あの子にも、颯太にも、わたし自身にも、いちばん失礼だから。
明日、いちごミルクを飲みながら――今度こそ、ちゃんと自分の気持ちと向き合おう。手はまだ震えてるけど、ね、やってみよ?
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― 沙織(恋ことば)






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