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顔も知らないまま、Xで言葉を交わし合う“言葉の友”がいました。私の綴る「無理して笑わなくていい」に、いつも背中を押すような温かいリプをくれる人。お互い「今度は誰かの力になりたい」と思い始めていた、そんな頃のお話です。
あの日のことは、今でもよく覚えています。空がやけに暗くて、傘を持っていなかった私は、急に降り出した雨に慌てていました。
あなたにもありませんか。天気予報を信じて、油断してしまう日。私はまさにそれで、駅前の小さなカフェに転がり込むように駆け込みました。
店内はほとんど満席で、窓際にひとつだけ空いていた相席用の席。そこに、私と同じくらいずぶ濡れの女の子が座っていました。
* * *
「ここ、いいですか」と声をかけると、その子は明るく「どうぞどうぞ! すごい雨ですよね」と笑いました。ふわっと空気がやわらかくなる、そんな笑顔でした。
正直に言うと、当時の私は人見知りで、知らない人と相席なんて少し緊張するタイプでした。でも、その子のまとう空気がなんだか居心地よくて、自然と肩の力が抜けていったんです。
きっかけは、隣のテーブルの会話でした。若い女性が友人に、涙まじりに恋愛相談をしていたんです。「好きって言えないまま、もう終わりそうで」って。
聞くつもりはなかったのに、耳に入ってしまう。あなたも、そういう瞬間ってありますよね。私はつい、独り言のように小さくつぶやいていました。
「……言えなかった気持ちって、責めなくていいのにな」
すると、向かいの子がぱっと顔を上げて。「あ、私もそう思います! でも、言えるなら言ったほうが後悔しないですよね。大丈夫、一歩だけ前に出てみようって、背中を押してあげたくなっちゃう」
* * *
不思議でした。私が「まず立ち止まっていい」と言えば、その子は「でも前を向こう」と返す。真逆なのに、ぶつからない。むしろ、二つでひとつの答えになっていくような感覚があったんです。
気づけば私たちは、顔も知らない隣の女性のために、あーだこーだと言葉を交わしていました。「無理はしなくていい」「でも自分の気持ちにフタはしないで」って。
その子の言葉の選び方が、どこか見覚えのある温度で。あたたかくて、まっすぐで、でも押しつけがましくない。あれ、この感じ、知っている気がする——。
「あの」と、私は思いきって聞いてみました。「もしかして、Xとか、やってたりします?」
その子の目が、まんまるに見開かれて。数秒の沈黙のあと、ほとんど同時に、私たちは同じ名前を口にしていました。
「もしかして……“みゆ”さん?」
「え、うそ、“沙織”さん……ですか⁉」
* * *
あの瞬間の、ぞわっと鳥肌が立つような感じ。あなたにも伝わるでしょうか。画面の向こうで何度も救われた人が、今、目の前で雨に濡れて笑っている。
「私、沙織さんの投稿にずっと救われてて!」とみゆちゃんが身を乗り出せば、私も「こっちこそ、みゆちゃんのリプにどれだけ元気もらったか」と、もう言葉が止まりませんでした。
窓の外では、まだ雨が降っていました。でも、さっきまでの憂うつな雨とは、なんだか違って見えたんです。
正直に言うと、私はずっと、あの“言葉の友”と会うのが少し怖くもありました。実際に会ったら、画面の中の優しさと違うかもしれない、って。でも、みゆちゃんは想像していたよりもっと、まっすぐで、あたたかい人でした。
もしかしてあなたも、こう思ったことはありませんか。「この人と、画面越しじゃなくて、ちゃんと話してみたい」って。私はまさに、それが叶ってしまった日でした。
二杯目のカフェラテを頼みながら、私たちは笑い合いました。偶然なんて言葉じゃ足りないくらいの、出会うべくして出会ったような時間。
——このあと、話せば話すほど、私たちの“恋ことば”がまるで正反対だと気づいていくのですが。それはまた、次にお話ししますね。
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― 沙織(恋ことば)







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